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【緊急レポート】イスラエル・イラン衝突と今後予想される影響

本レポートは2025年6月23日に執筆されたものです。

※本稿掲載後、イラン・イスラエルは米国の仲介で停戦に合意し、米東部時間の6月24日午前零時から停戦プロセスが開始され、停戦は公式に同25日午前零時に発効した。本稿執筆以後の26日時点での追記をこちらに掲載しています。

ポイント

  1. イランの核開発は、核兵器の取得に向けたレッドラインを越えたと国際社会から認定(6月12日IAEA理事会)され、これがイスラエルのイラン核施設攻撃の引き金となった。
  2. イスラエルの軍事作戦は、①イランの核開発能力の除去、②イランの政治指導者・軍事指導者の殺害、③イスラエルへの反撃能力の排除、を目的として行われ、概ね目的を達成。イランの弾道ミサイル保有数の関係で、今後の軍事的応酬は概ね10日〜2週間で収束するとみられる。
  3. ホルムズ海峡の全面封鎖は、イランの友好国である中国やインドとの関係で難しく、一時的に原油価格は上昇するものの、中長期的にはOPEC産油国の増産で、落ち着くと考えられる。日本は原油を中東に93%依存しているが、戦略備蓄も252日分まで積み増されており、供給不安発生の可能性は小さい。

2025年6月13日未明(現地時間)、イスラエルはイランの核関連施設及び軍事指導者等を標的とした攻撃を実施。イランは同日、報復としてイスラエルに対して弾道ミサイル・無人機による攻撃を実施した。その後連日にわたり、イスラエルによる空爆とイランによるミサイル・無人機による攻撃の応酬が続いている。さらに、22日未明(現地時間)米国は、イランの核関連施設3カ所に地中貫通型大型爆弾を用いた空爆を行った。イランは、中東の米軍施設に対して報復を行うと宣言しており、今後軍事衝突が中東全域に拡大し、米国内でテロが発生する懸念が生じている。

イランの核開発

今回の軍事衝突を理解する上で、イランによる核開発の経緯を知ることが欠かせない。イランは1980年代から密かに濃縮ウラン型の核開発を行ってきた。イランの核開発が大きく加速したのは1990年代で、パキスタンの核開発の父カーン博士の闇の核拡散ネットワークを通じて、濃縮ウランに関する技術と必要な機器を入手したからであった。2002年にナタンズの秘密ウラン濃縮施設の存在が暴露され、イランの核開発が国際社会から懸念されるようになった。以後、国際社会とイランの間で約20年に渡り、ウラン濃縮と再処理を巡る交渉と国連安保理による対イラン制裁決議が行われてきた。

核兵器を開発するためには、核弾頭の材料となる兵器級濃縮ウラン(90%以上の核分裂性の同位体ウラン235)または兵器級プルトニウム(93%以上の核分裂性の同位体プルトニウム239)が必要となる。広島に投下された原子爆弾は前者のウラン型、長崎に投下されたのは後者のプルトニウム型である。濃縮ウランは、天然ウラン(ウラン235約0.7%を含有)を六フッ化ウランという気体状にして、これを高速遠心分離機で濃縮することで生産する。兵器級プルトニウムは、天然ウランを黒鉛減速炉や重水炉でプルトニウムに転換した上で、使用済み燃料の再処理をして抽出する。ウラン濃縮施設も再処理施設も、原子力の商用利用で使われる施設であるため、商用利用を隠れ蓑に核兵器の開発が可能であり、通常は国際原子力委員会(IAEA)の厳しい監視下に置かれている。

イランは、ナタンズとフォルドにウラン濃縮施設、アラクにプルトニウム生産が可能な重水炉(未稼働)、イスファハンにウラン転換施設、テヘランに再処理等の研究施設を有している。イランは、ペルシャ湾岸のブシェールにロシアの援助で軽水炉1基を建設し、2013年から発電運用をしており、ウラン濃縮施設はこの商用原子炉のウラン燃料生産用と説明してきた。しかし、イランは2021年1月、ウラン濃縮度を20%まで高めると宣言し、核開発への懸念が国際社会から一気に強まった。

イラン国内の核施設関連

5月31日IAEAは、イランが60%に濃縮されたウラン235を408.6kg(核弾頭9個分に相当)保有し、監視活動を拒否していることから、深刻な懸念があるとの報告書を発表した。軽水炉燃料には3〜5%のウラン235を含有する低濃縮ウランが使われ、イランが行っている60%の濃縮は核兵器の製造以外の理由が立たず、IAEA理事会は、イランが核不拡散義務に反しているとの決議を6月12日に採択した。この決議は、イランが核兵器開発を行っていると国際社会が認めたに等しく、イスラエルによるイラン攻撃の直接の引き金になった

ライジング・ライオン作戦とイランの反撃

イスラエルは、対イラン軍事作戦(ライジング・ライオン作戦)を6月13日未明に開始した。軍事作戦の目的は、①イランの核開発能力の除去、②イランの政治指導者・軍事指導者の殺害、③イスラエルへの反撃能力の排除、と考えられる。

イスラエル国防省によれば、イスラエル軍は13日、まずイラン西部の防空システムに対する大規模な攻撃をおこない、これを無力化した。同時に、ナタンズのウラン濃縮施設及びイスファハンのウラン転換施設に対して空爆を実施し、さらに、斬首作戦として、イラン軍トップバゲリ参謀総長、イスラム革命防衛隊(IRGC)サラミ総司令官、IRGCラシッド緊急対応部隊司令官、IRGCハジザデ航空宇宙軍司令官などを殺害した。また、イランによる反撃を防ぐためイラン国内のミサイル発射車両、無人機発射施設に対する空爆を実施した。

13日の攻撃に対してイランは同日、2波にわたる報復攻撃を弾道ミサイル(約200発)及び100機以上の無人機によって実施。一部のミサイルはイスラエルのミサイル防衛網を突破し、テルアビブなどに着弾している。

以後、連日イスラエルによるイラン領内の空爆とイランによる報復攻撃の応酬が続いている。イスラエルは、14日までに20名のイラン軍およびIRGCの軍事指導者を殺害し、イランの主要な核科学者9名を殺害。また、イスラエル空軍は14日までにイランの空軍・防空部隊を排除し、イラン領空の制空権をほぼ確保。以後連日、核関連施設、軍事関連施設、軍需生産施設への空爆、およびミサイル発射装置、無人機の迎撃を実施している。

これに対してイランは、弾道ミサイル(14日75発、15日約100発、16日に約20発、17日約50発)と無人機を使いイスラエル全土を標的として22日現在で約20波に及ぶ攻撃を実施している。イスラエルのミサイル防衛システムは弾道ミサイルの約90%の迎撃に成功しているものの、撃ち漏らしたミサイルが着弾しており、その一部は住宅地にも着弾して大きな被害を出している。イランは迎撃が難しい新型の超音速ミサイルおよび多弾頭(1つのミサイルに20の小弾頭を搭載)ミサイルを攻撃に投入しており、イスラエルの迎撃を難しくしている。また、イランの無人機については、対空防衛網でほぼ撃墜されているとみられる。

米国による攻撃

2025年6月22日現地時間の未明(午前2時過ぎ)、米国はイランの核施設3カ所に対して空爆と巡航ミサイルによる攻撃を行った(Operation MIDNIGHT HAMMER)。このうち山中に建設されたフォルドの濃縮ウラン施設に対しては、B-2ステルス爆撃機から投下されるバンカーバスター(GBU-57)12発が使用され、ナタンズの濃縮施設とイスファハンのウラン燃料生産施設に対しては、巡航ミサイルトマホーク24発とバンカーバスター2発が使用された。トランプ大統領は自身のSNSに、核施設への攻撃は成功したと投稿しており、爆撃後のフォルドの衛星写真によれば、12発の爆弾が6カ所にピンポイントで落とされていることが分かる。高速遠心分離機は衝撃に弱いことから、フォルドのウラン濃縮施設は破壊され、当面機能しないと考えられる。

現状の評価

イスラエルによるイランへの軍事攻撃は、アメリカのバンカーバスターを用いた核施設への空爆もあり、①イランの核開発能力の除去、にはほぼ成功したとみられる。ナタンズとフォルドの高速遠心分離機は、今回の空爆で破壊されたと考えられ、イランが同様の施設を再建して兵器級の高濃縮ウランを手に入れることは、数年単位の時間がかかるとみられる。
また、②イランの政治指導者・軍事指導者の殺害も、イランの代理主体のハマスやヒズボラによるイスラエル攻撃の責任者であるコッズ部隊イザディ司令官の排除でほぼ完了している。イスラエルも米国も、「イランの政治体制の転換は結果として起こるかもしれないが、政権転覆の作意はしていない」としており、イランの最高指導者ハメネイ師の殺害はトランプ大統領の反対もあり、現時点では避けられると考えられる。

現在続いている空爆とミサイル・無人機による応酬が、どのくらいで収束するのかについては、イランの保有する弾道ミサイル数とイスラエルの空爆による弾道ミサイル発射能力の排除にかかっている。イスラエル国防省は使用可能なイランの弾道ミサイル保有数を2000発と推計している。すでに昨年4月と10月にイランは弾道ミサイルを320発使用しており、6月17日までの5日間で約500発を使用している。さらに、映像で確認されるだけでイスラエル空軍の空爆により数十両の発射装置が破壊されており、これらを合わせると保有ミサイルの約半数は使用済みないし破壊されたと考えられる。現在イランは、連日50発程度のミサイルを使用しているが、イスラエル空軍によるミサイル関連設備への空爆も続いており、10日から2週間程度でミサイルの在庫切れとなり、現在のミサイルによる応酬は収束すると考えられる。

なお、イランがテロやサイバー攻撃など非対称的手段で、米国への報復を行う可能性は、今後数週間にわたり継続すると思われる。6月22日に米国土安全保障省は、国内害での米国政府機関や米国軍施設へのテロの可能性を指摘する注意喚起を発出している。

今後の影響

(ホルムズ海峡封鎖の可能性)
イランは、米国が介入すれば、中東地域の米軍基地は攻撃目標になり、中東全域が戦場になると警告してきた。米国による攻撃が行われた今、イランが報復としてホルムズ海峡を封鎖するか否かが焦点となっている。すでに、米国の空爆が行われた22日、日本の海運会社が運航する英国籍のケミカルタンカーが、ホルムズ海峡の手前で引き返すなど、船舶の運航に影響が出てきている。また、イラン国会がホルムズ海峡封鎖を承認した、との報道もでている。

ホルムズ海峡は、エネルギー輸送のチョークポイントとなっており、狭いところで21海里(約35km)の幅しかなく、航路帯は東行き西行きとも2海里(約3km)となっている。この海峡を原油が日量1400万バレル、石油製品が日量590万バレル通過(25年第1四半期)している。これは、世界の石油需要の約20%にあたる。また、LNGも日量115億立方フィートが同海峡を通過する。ホルムズ海峡を通る原油の83%、石油製品の84%がアジア向けである。このうち原油の行く先は、中国が38%、インドが15%、韓国が12%、日本が11%、その他のアジア諸国が14%である。そのため、ホルムズ海峡が封鎖されれば、日本を始めとしてアジア諸国で大きな影響が生ずる。ただし、ホルムズ海峡を封鎖すれば、イランの友好国の中国やインドなどとの軋轢は避けられず、イランとしては難しい判断となる。

ホルムズ海峡封鎖時の代替経路としては、サウジアラビアの東西パイプラインでペルシャ湾岸から紅海ヤンブー港に送るルート(最大日量900万バレル)、UAEからオマーン湾のフジャイラ港へのパイプライン(日量最大180万バレル)が存在するが、米エネルギー省は、このうち代替として使用できるのは260万バレル程度と推計している。

原油価格は、イスラエルのイラン攻撃前にはWTIが1バレル60ドル前後まで下落していたが、6月20日には74ドルまで高騰しており、ホルムズ海峡が封鎖となれば、短期的に高騰が避けられない。過去には、1990年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争では短期的に油価が約2倍なった例もある。

(中長期の見通しと日本への影響)
イスラエル・イラン・米国の軍事衝突による中東の緊張は、短期的に原油価格を押し上げる可能性が高いが、中長期的には原油価格は落ち着くと考えられる。サウジアラビア、UAE、オマーン、ロシアなどOPEC+の8カ国は、日量220万バレルの自主減産を10月末までに解除する可能性がある、と報道されている 。その中でも、サウジ政府関係者は、自主減産を前倒しで終了し、5月から増産するとメディアにほのめかしており、夏頃までに200万BPD程度の増産を行う可能性がある。

日本は 原油については、最新の4月で輸入量のうち中東からが93.7%となっており、中東依存度は高い。ただし備蓄は豊富で、2025年4月現在で民間備蓄95日分、国家備蓄147日分、産油国共同備蓄9日分の計252日分が備蓄保有されており、ホルムズ海峡封鎖によって直ちに供給が途絶することはない。また、LNG(2023年中東依存度9%)、LPG(2023年中東依存度8%)は、調達先の多角化が進んでいる。ホルムズ海峡封鎖の影響は原油価格の点で短期的に発生するが、中長期的には限定的と考えられる。

(イランの無人機・ミサイル生産能力の減少)
今回のイスラエル・イラン衝突は、ウクライナ戦争の行方にも一定の影響を与えそうである。イランは2022年秋から、ウクライナ戦争でロシアが使用している無人機とミサイルの供給源となってきた。英国のシンクタンクIISSの分析によれば、飛行機型の無人機Shaed-136(航続距離2000km)に加えて、短距離ミサイルFath-360(射程120km)などをロシアに提供してきた。

今回のイスラエルの空爆では、イスラエルへの反撃能力を削ぐために、イラン国内の無人機及びミサイル工場も標的となっており、またイランはイスラエルへの反撃のために、生産能力を振り向ける必要があることから、ロシア向けのミサイル及び無人機の完成品・部品の輸出は大幅に減少するとみられる。

【緊急レポート】イスラエル・イラン衝突と今後予想される影響(6月26日追記分)

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