※2025年6月23日に執筆したレポートの追記です。本文はこちらに掲載しています。
米国の仲介による停戦
2025年6月23日(米東部時間13:00、イラン時間20:30)イランは米国による核施設への空爆の報復として、カタールの米軍基地に対して、事前に米国を含む各方面に通告した上で、米国が投下した地中貫通型大型爆弾と同数の14発のミサイルによる攻撃を行った。この攻撃が融和をにおわせるものであったことから、攻撃直後から米国、カタール、イラン、イスラエルの停戦協議が始まり、23日18時頃(米東部時間、イラン時間24日1:30頃)迄に交渉が成立し、トランプ大統領は、「みんなおめでとう。完全かつ全面的な停戦がイランとイスラエルの間で合意された。6時間後に停戦となる。(中略)「「12日戦争」は公式に終わる」と自身のSNSに投稿した。23日22時頃(米東部時間、イラン時間5:30)イランからイスラエルにミサイルが飛来。ベエルシェバの住宅地に着弾したが、他のミサイルは迎撃された。
24日午前0時(米東部時間、イラン時間7:30)停戦プロセスが開始された。直後に、トランプ大統領が「停戦が発効した。これを破ることなかれ」と投稿した。停戦は、双方が攻撃を控える状態で24時間が経過した時点で正式に発効する。
停戦プロセス開始後、イランから1発の弾道ミサイルがイスラエルに発射され、イスラエル側に撃墜された。イスラエルは停戦違反であるとして報復攻撃を示唆。トランプ大統領は、「その爆弾を落とすな。(中略)操縦士を帰還させろ」と投稿。イスラエルは報復としてレーダーサイトを空爆したが、その他の航空機は帰還した。このように停戦プロセス中の混乱はあったものの、停戦プロセス開始後の25日午前0時(米東部時間)停戦が公式に発効した。26日現在、イラン・イスラエルの停戦は継続している。
現時点での評価(追記)
(イランの核開発能力除去)
フォルドの核施設への地中貫通型大型爆弾を用いた空爆の成果について、核開発への影響は限定的との米軍情報評価がなされたとの報道が出ている。しかし、高速遠心分離機は、今回の空爆で破壊されたという当初の評価に変更はない。イランが濃縮ウラン製造に用いている高速遠心分離機は繊細な構造で、一度稼働すると停止が難しいという特徴がある。空爆で生じた衝撃で壊れた可能性が高く、仮に空爆や停電が原因で停止した場でも、遠心分離機内部の六フッ化ウランが固化して遠心分離機を故障させるため、フォルドの核施設の遠心分離機は機能しなくなっていると評価する。したがって、イランが同様の施設を再建して兵器級の高濃縮ウランが生産可能になるには、数年単位の時間がかかるとみられる。
(イランの残存ミサイル数)
当初の評価では、最大半数(1000発)のミサイルが残存している可能性がある、としていた。しかし、その後入手した情報により、この評価を訂正する。イスラエル国防軍は、ミサイル発射装置の65%を破壊し、800-1000基のミサイルを地上で破壊した、と評価している。2024年にイスラエル向けに発射された320発、6月13日からの12日間で発射された550発と合わせると、イランはほぼミサイルを撃ち尽くしたと考えられ、このことがイランをして停戦を決意させる要因の一つとなったと思われる。
今後の評価(追記)
イスラエルの攻撃および米国の空爆によって、イランは①核開発能力の喪失(設備及び主導する科学者の喪失)、②最高指導者ハメネイ師を除く主な政治指導者・軍事指導者の喪失、に加えて、③空軍力、対空防衛能力、中距離ミサイル攻撃能力などの軍事力を喪失した。また、イランの代理勢力としてイスラエルなどと敵対してきた、ガザ地区のハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派も著しく弱体化している。
そのため、当面(数年間)の間、イランにはイスラエルや米国と軍事的に事を構える余力はなく、今回のような軍事力行使を伴う衝突は数年にわたり発生しないと考えられる。しかしながら、イランが従来から実施していたサイバー攻撃やテロ攻撃など、軍事報復を招く閾値を超えない(すなわち軍事力行使と見なされない)非対称攻撃は、継続する可能性が高いと思われる。
また、今回の軍事衝突によって、中東の力学に大きな変動が生じたことには注意が必要である。2003年のイラク戦争で、同地域の大国としてイランと対立していたサダム・フセイン体制のイラクが崩壊し、イランは相対的に中東地域で大きな力を持つようになった。今回この構図に大きな変化が生じたことになる。今後、中東地域では、イスラエルが影響力を拡大するだけでなく、シリアやイランと国境を接する中央アジアで、トルコの影響力が相対的に非常に大きくなる。すでにトルコは、周辺での軍事衝突に際して、ウクライナ、パキスタン、アゼルバイジャンに無人機・ドローンなどを供給している。帝国のレガシーを有するトルコの台頭は、今後注視していく必要がある。