ポイント
- 3月17日に閣議決定された外為法改正案では、地政学リスクの高まりに対応した対内直接投資規制の強化と制度改革が打ち出された。
- 投資促進とリスク管理のバランスが求められるなか、米国では規制強化と低リスク投資家向けの手続き簡素化が並行して進められている。
- 日本版CFIUSの有効性を高めるためには、制度設計に加え、人員や情報といった基盤の整備が不可欠である。
2026年3月17日、高市内閣は、対日投資の審査を強化する外為法改正案を閣議決定した。外国投資家による日本企業への間接投資の規制強化に加え、いわゆる「日本版CFIUS」の導入が柱とされている。こうした動きは、日本の経済安全保障にどのような意味を持つのだろうか。本稿では、世界で最も強力な制度とされる米国の仕組みと比較しながら、その意義と課題を考える。
対内直接投資規制の潮流と日本の規制
外国からの直接投資(株式取得を通じた経営参加や企業支配を目的とする投資)は、1990年代以降、世界的に促進されてきた。先進国でも新興国でも、対内直接投資の受け入れは、受け入れ国の経済成長を支える重要な要素との認識が広まったためである。かつて投資受け入れに慎重だった日本も、2000年代以降は数値目標を掲げるなど、積極的な誘致を進めてきた。
しかし近年、状況は変わりつつある。地政学リスクの高まりを背景に、外国からの投資が国家安全保障に与える影響への関心が増大した。軍事技術の流出や外資による重要インフラの支配といった従来からの懸念に加え、近年では、軍民両用技術(デュアルユース技術)や個人データの流出への懸念、サプライチェーンの脆弱性といった観点からも、先進諸国では対内投資規制の厳格化が進められている。2000年代以降、中国など新興国からの投資が拡大したことも、規制強化の一因となっている。
こうした流れのなかで、日本の制度も大きく変化してきた。日本では、1980年の外為法(外国為替及び外国貿易法)改正以来、対内直接投資は原則自由とされている。ただし、安全保障や重要インフラに関わる業種では、従来から事前届出が求められてきた。2007年以降、その対象は徐々に拡大し、2019年の告示・政令の改正ではIT・通信分野が事前届出の対象業種に加わるなど、規制範囲は大きく広がった。
規制の強度も引き上げられた。2019年の外為法改正では、株式取得に関する事前届出の基準は、それまでの「10%以上」から「1%以上」へと大幅に引き下げられた。また、特に慎重な審査が必要な分野として「コア業種」という区分が新設された。
もっとも、投資の萎縮を避けるための配慮も行われている。一定の条件を満たすポートフォリオ投資(純粋な資産運用を目的とした投資)については、事前届出を免除する制度が導入された。経営に関与しない、機微な技術情報にアクセスしないといった条件を守る場合には、届出は不要となる。さらに財務省は、すべての上場企業について、どの企業が事前届出の対象となりうるかを示すリストを2020年以降公表し、投資家の予見可能性を高めている。
その後も対象分野は拡大を続けている。2020年には医薬品、2021年にはレアアース関連が事前届出の対象業種に追加され、2023年には経済安全保障推進法で「特定重要物資」が指定されたことを受けて、半導体や工作機械・産業用ロボットなどがコア業種に組み込まれた。
業種の拡大の結果、事前届出の対象となる企業数は大きく増加した。財務省のリストでコア業種に分類されている上場企業は、2020年5月には518社だったのが、2025年には996社となり、全上場企業の24.6%を占めるに至っている。コア業種以外の指定業種は2025年9月時点で902社 (22.3%)である。当然ながら、事前届出の件数も急増し、2024年度の外為法・投資審査制度年次報告書によると、2018年の594件から2019年には1946件と大幅に増え、2024年には2903件に達している 。
規制の強化は、対象となる業種の拡大だけにとどまらない。制度の実効性を高めるための見直しも進められてきた。2017年の外為法改正では、届出が行われなかった場合や、実際の投資内容が届出と異なっていた場合に対応するための是正措置が導入された。
形式上は新たな対内投資ではなくても、実質的に外国投資家の支配につながる取引への対応も強化されている。2017年には、外国投資家の間で株式が移転される「特定取得」も事前審査の対象に加えられた。2025年5月の政令改正では、外国政府の情報収集に協力する義務を負う企業や個人による投資について、事前の届出が義務付けられた。これは、中国政府の影響下にある企業を念頭に置いた措置である。
現在検討されている外為法改正でも、外国投資家による間接的な投資への規制強化が盛り込まれている。こうした一連の動きは、形式ではなく実質に着目してリスクを捉えようとしている。
審査体制:日本版CFIUSの意味
日本の対内直接投資審査は、財務省を中心に、対象事業を所管する各省庁が連携して行う仕組みとなっている。なかでも扱う件数が多いのは、経済産業省である。もっともこうした連携の枠組みは、法的に明確に位置付けられたものではなかった。
現在国会に提出されている外国為替及び外国貿易法改正案では、財務大臣および事業所管大臣が、必要に応じて関係機関の長に意見を求めることを義務付けるとしている。これを制度化するのが、いわゆる「日本版CFIUS」構想であり、財務省と国家安全保障局(NSS)を中心に、経済産業省や防衛省などが参加する委員会の設置が想定されている。
この構想は、政治主導で打ち出された。高市早苗首相は、2025年10月の自民党総裁選において「対日外国投資委員会」の創設を公約に掲げていた。この方針は、総裁選後に取りまとめられた自民党と日本維新の会の連立合意にも盛り込まれているが、そこでは「外国人政策」の一環として位置づけられ、対内投資の審査をより厳格化する方向性が強調されていた。
一方で、外為法改正の検討過程では、やや異なる焦点も見られた。財務省の関税・外国為替等審議会外国為替等分科会では、執行体制そのものよりも、実質的な支配の把握など、審査の実効性をいかに確保するかが主に議論されていた。しかし、政府内で日本版CFIUSの検討が進められていたことを踏まえ、関係省庁間の協力体制を強化する必要性が、最終的には答申にも盛り込まれるに至っている。
日本版CFIUSが導入されれば、情報の集約と判断基準の一体化が進む点で一定の意義がある。また、防衛省が正式に審査に関与することも、従来との重要な違いである。他方で、この体制が投資を萎縮させる過度な規制につながらないよう、適切なバランスを確保することが求められよう。
米国の制度:強力さの源泉
米国の対内直接投資審査は、世界で最も強力な制度として知られている。その中心となるのが、複数省庁で構成される対米外国投資委員会(CFIUS)であり、その判断に基づいて大統領が最終的な決定を下す。
米国では、1988年包括通商法のエクソン・フロリオ条項により、ほぼすべての業種における直接投資の審査・規制が可能だ。投資前の申告(notice)は一部を除いて義務ではないが、申告がなかった場合でも、CFIUSは投資完了後にも審査を行い、必要と判断すれば売却を命じることができる。実際、これまでの11件の投資差し止め命令の半数以上は、投資実行後に発出された。
米国でも、国際環境の変化に伴い、対内投資規制は段階的に強化されてきた。
2007年に成立した外国投資及び国家安全保障法(FINSA)では、審査における「国家安全保障」の範囲が広げられ、「重要産業基盤に対する外国の支配の可能性」が新たな判断基準として加えられた。「重要産業基盤」の概念については幅広く解釈できる余地を残し、審査対象の柔軟な拡張を可能にした。
さらに2018年には外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)が成立し、制度は一層強化される。まず、審査対象となる取引の範囲が拡大された。支配を伴わない投資であっても、重要技術、重要インフラ、機微な個人データに関わる場合には審査の対象となる。また、一部の不動産取引も新たに対象に加えられた。
加えて、特定の取引については投資前の申告が義務化された。具体的には、重要技術に関する投資や、外国政府と実質的な利害関係を有する投資家による取引である。その一方で、低リスク案件への対応として、簡易届出制度も導入された。申告義務のない案件でも簡易届出を行うことで、投資を円滑に進めることが可能となっている。
こうした改革の結果、申告件数は増加した。義務のない分野でも、事後的な審査を避けるために、自主的に申告や簡易届出を行う動きが広がったためである。CFIUS 2024年報告書によると、2024年の申告数は209件、簡易届出は116件である。FIRRMA成立後、中国からの投資件数自体は増えていないものの、事前に手続きを行う割合は高まっている。
審査体制の見直しも進んでいる。FIRRMA以降、当局が特に重視しているのは、過去の投資案件の洗い直しと、新たなリスク領域への対応である。前者については、2024年には申告されていない数千もの案件が検討され、そのうち98件について正式な調査が行われた。後者の典型例が、個人データをめぐる問題である。日本でも大きく報じられた動画アプリTikTok(ティックトック)の売却命令は、中国のバイトダンス社による大量の個人情報の取得が、安全保障上のリスクとみなされた事例として象徴的である。
さらに2024年12月に発効した新規則では、当局の情報収集権限が強化され、未申告案件の調査が一層進めやすくなった。同時に、罰則金も大幅に引き上げられ、違反に対する抑止力が高められている。
もっとも、米国の政策は規制強化一辺倒ではない。低リスクとみなされる投資については手続きの簡素化も進められている。2025年2月に大統領のメモランダム(覚書)として公表された「アメリカ・ファースト投資政策」では、中国企業への規制強化と並行して、同盟国からの投資を促進するために手続きを簡素化する方針が示された。現在は、投資実績のある投資家を対象に審査を簡略化する「既知投資家向けプログラム」の導入も検討されている。
審査の実態:政治化という課題
米国はFIRRMA成立後に審査担当人員を増員し、多様なインテリジェンスも活用して、強力な審査を行っている。投資が正式に拒否された件数はこれまでに11件であるが、投資中止命令に至らなくても、投資を断念するに至ったり修正が求められたりする例は多い。2024年の209件の申告のうち、25件(12%)に是正措置(mitigation)が付された。いわば条件付き承認である。また、49件(23%)が取り下げられ、その大半は再申請されたが、4件は投資を断念した。つまり、約3分の1の申告には何らかの修正が求められたことになる。既に実施された投資案件についても、事後的な調査を積極的に行っている。
もっとも、その強力さは課題とも表裏一体である。審査基準に柔軟性があることから、政治的判断が入り込む余地があることが、しばしば指摘されてきた。例えば、2018年に半導体大手クアルコムのブロードコムによる買収をトランプ大統領が差し止めた事例では、敵対的買収を阻止するためにクアルコムがCFIUSの審査を利用した可能性がある。
投資審査が政治的に利用される可能性をはっきりと示したのは、2025年1月にバイデン大統領が、日本製鉄によるUSスチールの買収を差し止めた事案である。同盟国である日本の企業による買収が、安全保障上の脅威を理由に阻止されたことは衝撃を与えた。背景には、全米鉄鋼労働組合(USW)による反対があり、2024年の大統領選の過程で、米国を象徴する企業への買収提案が政治化された。後にトランプ大統領によって差し止め命令は見直されたものの、日本製鉄は、投資額の積み増しや、経営判断に米政府の拒否権を認めるなどの条件を飲むことを余儀なくされた。
日本の課題:件数の多さと体制
日本の制度においては、まず特徴的なのは審査件数の多さである。2024年度には2903件の事前届出があり、米国の数倍に達している。英独仏など他の先進国と比べても、日本の件数は突出して多い。
一方で、投資中止命令に至ったケースは、2008年、投資ファンドであるTCIによるJパワー買収の1件にとどまっている。それでは、取り下げや条件付きで認められる比率はどの程度だろうか。2024年度のデータでは、2024年度の取り下げ件数は363件で、届出件数全体の約11%にあたる。2020年度以降の割合は、8%から12%程度で推移している。
条件付きで投資が認められた件数は公表されていない。この背景には、日本の制度が事前届出制を採用していることがある。法的には許可制ではないため、当局が条件を付して承認することはできない。そのため、問題がある場合には、いったん届出を取り下げ、修正したうえで再提出するという手続きが必要になる。これをより柔軟で効果的なものとするため、審議中の外為法改正案では、事前届出に「国の安全等に係る措置」を含め、審査期間中や投資後にもその修正ができるようにするという内容が盛り込まれている。
また、日本では米国のような強力なインテリジェンス体制を持たないため、事前届出に依存した審査にならざるを得ない。その結果、対象業種を広く設定し、多くの案件を処理する構造となっている。しかし、件数の多さに比べて審査体制の人的資源は、近年の増員はあったとはいえ十分とは言えず、実効性の確保には課題が残る。
おわりに:自由な投資環境とリスク管理のバランス
経済安全保障の時代において、対内直接投資規制はますます重要性を増している。政府は、投資の促進による経済的利益と、安全保障上のリスク管理という二つの目標の間で、難しいバランスを求められている。
規制を強化しすぎれば、企業活動を萎縮させ、経済基盤を弱めてかえって安全保障環境を悪化させるおそれがある。一方で、規制が不十分であれば、技術流出やインフラ支配といったリスクにさらされることになる。また柔軟な運用は不可欠であるが、それは同時に、政治的・恣意的な判断の可能性にもつながる。
日本版CFIUSの導入は、こうした課題に対する一つの解答である。しかし、その実効性は、制度設計だけでなく、人員や情報といった基盤の整備に左右される。制度の形式を整えるだけでは十分ではない。今後、日本がどのような投資環境と安全保障体制を築いていくのか。その方向性が問われている。
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