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DCER経済安保1万人サーベイ

セキュリティ・クリアランス法施行:1万人サーベイでは74%が必要性を理解

経済安全保障強化に向けたセキュリティ・クリアランス制度が始動

経済安全保障に関連する重要な情報を守るためのセキュリティ・クリアランス法(正式名称:重要経済安保情報保護活用法)が2025年5月16日に施行され、制度の運用がはじまった。

このセキュリティ・クリアランス(以下SC)制度は、地政学的リスクの高まりを背景に、安全保障上重要な情報を官民で適切に共有することを目的として設けられたものである。具体的には、信頼性が確保できる個人に対してのみアクセス資格(SC資格)を付与し、重要情報を取り扱える人を限定する。対象となる情報としては、サイバー脅威およびその対策に関する情報や、サプライチェーンのぜい弱性に関する情報などが想定されている。

特定秘密保護法との違い:役職連動から個人資格へ

SC制度の最大の特徴は、事実上「個人」に情報取り扱い資格が付与される点にある。すでに安全保障関連情報を保護する法律としては特定秘密保護法が存在するが、同法では、取り扱い資格は特定秘密を扱う「ポスト(役職)」とひも付けられている。そのため、人事異動によって該当ポストから離れると、資格も失効する仕組みとなっている。

これに対し、今回のSC制度では、適性評価を受けた個人が取得した資格は、人事異動によって所属部署が変わった場合や、官から民、あるいは民から民に転職した場合であっても、10年以内であれば詳細な身元調査を省略し、軽微な適性評価により再度資格を付与できる仕組みとなった。これは、事実上、個人に「資格のポータビリティ」を認める制度運用であり、欧米諸国と同様に、重要情報を取り扱う「免許証」のような性格を帯びることになる。

SC制度の中核をなす身元調査とその調査内容

一般に「SC」とは、国家安全保障上の必要性にもとづく情報保全措置の一環であり、(1)安全保障上重要な「情報の指定」(情報区分指定)、(2)機密情報へのアクセスが必要な個人に対する身元調査、信頼性の確認、およびアクセス権の付与(「人のセキュリティ・クリアランス」)、(3)機密情報を扱う会社・組織・情報システムに対する適格性の確認(「施設セキュリティ・クリアランス」)、(4)機密情報の漏えいに対する厳罰規定(「罰則」)の4つの要素から構成されている。今回の制度では、「SC資格のポータビリティ」が導入されたことから、これら4要素のなかでも「人のSC」が最も重要であり、それを担保する身元調査が制度の肝となる。

この身元調査は、本人の同意にもとづいて実施されるが、その調査項目は多岐にわたる。具体的には、本人および家族の住所・戸籍、犯罪および懲戒歴、情報漏えい歴、薬物使用歴、精神疾患の有無、飲酒の節度、金融信用状態および経済状況など、プライバシーに深く関わる内容が含まれている。加えて、本人や上司への確認にとどまらず、公官庁や公私の団体への照会も実施されるとされている。

以上より、SC制度において身元調査実施の是非は最も賛否が分かれる可能性のある要素であり、その運用にあたっては国民の理解と納得が不可欠である。こうした背景を踏まえ、電通総研 経済安全保障研究センター(以下、DCER)は、2024年12月下旬に実施した「DCER経済安保1万人サーベイ」の一環として、全国の有権者1万人を対象に、SC制度のうち特に「人のセキュリティ・クリアランス」を担保する個人の身元調査の是非について調査を行った(調査手法の詳細はこちら、当調査における倫理的配慮についてはこちら)。

有権者の74%が本人の同意を前提とした事前身元調査の必要性に理解

本調査では、「重要インフラのセキュリティ対策情報など、経済安全保障に関わる「重要な情報」にアクセスできる人物については、非友好国や懸念国とのつながりがないか、本人の同意を得たうえで、政府が事前に身元調査を行うべきだ」という意見について、回答者がどう思うかを尋ねた。回答は「強くそう思う」「ややそう思う」「どちらともいえない」「あまりそう思わない」「まったくそう思わない」の5択から選択してもらった。

調査の結果、全体の約74%が事前の身元調査(以下「人のSC」)に肯定的な意見(「強くそう思う」と「ややそう思う」の合計)を表明した。一方、「どちらともいえない」と回答した者は約22%、否定的な意見(「あまりそう思わない」と「まったくそう思わない」の合計)は約4%に留まった。身元調査に際してはプライバシーへの懸念が伴うものの、経済安全保障の確保という公共の利益のためには、一定程度是認されうるという認識がこうした結果に反映された可能性がある。

年齢別に見ても、すべての年代層で60%以上の回答者が肯定的な意見を表明しており、特に19歳以下および50代以上では肯定的な回答割合が高かった。一方、否定的な回答割合は若年層ほど高い傾向が見受けられ、身元調査に慎重な姿勢を示す層が、相対的に若年層に一定数存在することが確認された。

回答者の74%が「人のセキュリティ・クリアランス」の必要性に肯定的
「人のSCを実施すべき」との意見に対して、あなたは?
出所:電通総研 経済安全保障研究センター「DCER経済安保1万人サーベイ」 (N=10,000)。(注) 「そう思う」は「強くそう思う」と「ややそう思う」の合計、「そう思わない」は「あまりそう思わない」と「まったくそう思わない」の合計である。

また、日常的に接している情報源によって、人のSCに対する態度には大きな差が見られた。政府情報、講演会、有料ネットメディア、新聞などを主たる情報源とする層では肯定的な回答割合が高かった一方、SNSを主たる情報源とする層では、否定的あるいは態度保留の回答割合が相対的に高かった。この傾向は、慎重姿勢が若年層に多いことと整合的であるが、こうした否定的な態度の決定要因については、さらに精緻な分析が必要である。

日頃の情報源により人のセキュリティ・クリアランスに対する態度に大きな差
「人のSCを実施すべき」との意見に対して、あなたは?
最も頻繁に利用している情報収集手段は?
出所:電通総研 経済安全保障研究センター「DCER経済安保1万人サーベイ」 (N=10,000)。注1: 「そう思う」は「強くそう思う」と「ややそう思う」の合計、「そう思わない」は「あまりそう思わない」と「まったくそう思わない」の合計である。注2: 政策に対する態度形成には多様な要因が影響しており、単一の情報源が意見形成に決定的な影響を与えるものではないことに留意されたい。

最後に、支持政党(与野党)別に見ると、与党支持者(80.0%)、野党支持者(78.8%)ともに約80%が肯定的な意見を表明しており、経済安全保障上の課題解決手段としての本制度に対する基本的な賛成傾向が、広く共有されていることがうかがえる。一方、無党派層(69.2%)では中立または否定的な意見がやや多く、非回答層(60.7%)はさらに慎重な姿勢を示したが、いずれの層も過半数は肯定的な意見を示している。

与野党支持者ともに約80%が肯定的な意見を表明
「人のSCを実施すべき」との意見に対して、あなたは?
出所:電通総研 経済安全保障研究センター「DCER経済安保1万人サーベイ」 (N=10,000)。注1: 「そう思う」は「強くそう思う」と「ややそう思う」の合計、「そう思わない」は「あまりそう思わない」と「まったくそう思わない」の合計である。注2: 本結果は、特定の政党や政策を支持または否定するものではなく、あくまで統計的傾向を記述したものである。また、支持政党と政策支持の関係については、因果関係を主張するものではない。
DCER経済安保1万人サーベイ

能動的サイバー防御法が成立:1万人サーベイでは69%が肯定的意見

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