本稿は、電通総研経済安全保障研究センター(DCER)の研究陣が執筆した書籍『経済安全保障とビジネス』の第5章「実務者のための経済安保Q&A」から、“サプライチェーンの可視化と海外人材の採用ならびに配置”という2つの視点を抜粋したものです。
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【Q】
サプライチェーンはどう可視化するの?
【A】
経済安全保障の観点からサプライチェーン(供給網)を検証する際は「支配と依存」「制度」「信頼と健全性」という3つのリスクを意識する必要がある。
「支配と依存」は他国の戦略的不可欠性に起因するリスクで、特定国への依存度が極めて高い重要鉱物が典型だ。「制度」は輸出規制や制裁など法制度のリスク、「信頼と健全性」は取引先の支配構造や経営者の属性、製品・サービスの品質(サイバーリスク対応を含む)に関わるリスクだ。
企業における経済安全保障の目的が事業継続にある以上、可視化にも優先順位を設けるべきだ。限られたリソースの中で「どのリスクをどこまで可視化するか」を明確にすることが重要になる。
実務では3つの段階を踏むといい。まず、取引先データの整合性をとること。社内のシステム内で、同一企業に複数のコードが紐づいているケースは多く、これを統一しなければ依存関係の把握が進まない。
次に、代替が難しい調達先の特定。特に重要品目については、サプライヤーの協力を得て2次・3次の間接調達先まで把握すべきだ。
最後に、対策の実行である。手段は原則として、①備蓄、②代替調達ルートの確保、③省資源・リサイクル、④代替品の開発、の4つに限られる。調達先に寡占企業や制裁対象企業が見つかれば、どの手段が有効かを速やかに判断し、実行に移さなければならない。
実行のスピードは、サプライチェーンを可視化するスピードと精度にかかっている。AIを活用した広範な可視化も有効だが、こうした3段階を整理してこそ意味を持つ。AIは万能薬ではなく、基礎を整えた上で活用すべき道具として捉えるべきだ。
【Q】
海外人材の採用と配置のリスクは?
【A】
ダイバーシティー(多様性)の推進は企業の持続的成長に不可欠であり、海外人材を活用できない企業に中期的な発展は望めない。一方、候補者のバックグラウンドを調査し、採否や配属を判断することは、今や必要なリスク管理である。特に、重要情報を扱う部門や重要工程を担う部門では適切な配属判断が欠かせない。
労働基準法第3条は「国籍」「信条」「社会的身分」を理由とした差別的取り扱いを禁じており、この点への配慮は当然だ。もっとも、「国籍による差別」と「安全保障上の合理的措置」の線引きは簡単ではない。例えば、中国の国家情報法には「すべての組織と個人が国家情報活動に協力すべき・支援・協助する義務を負う」と明記されている。経営者が中国籍の人材配置に慎重になるのも無理はない。これは国籍そのものに向けられた懸念というよりも、法制度の非対称性に起因する問題だ。
米国では、犯歴や信用情報の確認が制度的に可能だが、日本では制度整備が不十分で、採用担当が候補者の背景を確認する手段が限られる。このため採用リスクを補うには、法的・外的リスクの度合いを見極め、リスクを含めた多面的な評価が必要となる。「外国法令による強制的情報提供義務」など、客観的に説明可能なリスクを理由に慎重な措置を取る場合も、業務上の合理性を明確にし、その判断根拠を記録しておくことが重要だ。
リスクの度合いを見極め、配置を最適化すれば、海外人材の能力を最大限に生かす道が広がるのは言うまでもない。経営の判断軸を「排除」から「適正配置」に転換することこそ、真のリスク管理といえる。無論、日本人であっても当該人物が外国政府の影響下にあるなど、「みなし輸出管理制度上の特定3類型」に該当する場合は同様の対応が求められる。

