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中国の過剰生産、なぜ止まらないのか:貿易救済措置に「第4の選択肢」を

ポイント

  1. 中国では、旺盛な参入を促す産業政策と、赤字企業の撤退を阻む高い政治的コストが相まって過剰生産が構造化しており、その結果として赤字でも生産を続ける「ゾンビ企業」が温存されている。この構造は、海外の産業基盤を破壊するだけでなく、中国自身にとっても害である。
  2. WTOルールには、輸出国の不当廉売による害にはアンチダンピングで、補助金による害には補助金相殺関税で、そして相手国の非を問わない輸入急増にはセーフガードで対応する3つの貿易救済措置が備わっている。しかし、これらは赤字を出しながら輸出を続ける行為の規律づけとなっていない。
  3. 赤字企業の輸出分を直接相殺する「規模関税」を第4の貿易救済措置として新設し、その税率を複数の輸入国で統一する仕組みをCPTPPやEUが主導して構築するべきである。

産業政策とグローバルインバランス

中国は、AIや自動運転などの最先端分野でアメリカとの熾烈な技術革新競争を進めている。その一方で、鉄鋼や太陽光パネル、EVなどの分野では、国内市場で業界全体が赤字基調に陥っており、各企業は国内販売から海外市場での販売へと軸足を移しつつある。この中国の「光」と「闇」は、いずれも「旺盛な参入」と「いつまでも進まない撤退」がもたらす苛烈な競争の産物である。

中国政府の産業政策は、30年の経験の積み重ねにより、「推奨産業リスト」の作成を通じて民間投資を効果的に誘導できるようになってきた。ある産業を育成しようとする際、その産業に関わる上流から下流までの産業連関を整えることができれば、産業全体のコストを低下させることができる。人口規模の大きな中国では、この産業連関がもたらす「外部性」が特に強く働く。このリストをもとに、銀行やプライベートファンドからの投資が誘発され、地方政府による土地配分の優先順位も決まっていく。特定の国有企業を名指しで支援するのではなく、推奨「技術」をリスト化することで新規産業でも企業間競争が生まれ、これを通じて優れた企業がその能力を磨く環境が整えられてきた。

こうした政策が優れた企業家の活動とかみ合った結果として実現したのが、EV産業の急速な発展である。2016年にスタートしたEV産業の振興策では、EV購入者向け補助金の受給条件として、政府が指定するホワイトリスト(57社)に掲載された企業の電池を使用していることが求められた。この支援を追い風に成長し、現在EV電池でトップを走るメーカーとなったのがBYDとCATLである。ただし、この第1次ホワイトリストには、当時のリーディング企業であるパナソニック、AESC、LG、サムスンの電池が掲載されず、WTOの内国民待遇違反の状態にあった。しかも、日韓両国政府が当時、これに対して効果的な異議申し立てを行わなかった点は指摘しておく必要がある。EV市場における産業政策の効果を産業組織論の枠組みで分析した研究によれば、このとき外国企業を排除した効果は大きく、実質的に日韓企業の市場を収奪する結果になったと分析されている。

なぜ過剰生産は止まらないのか­——「退出なき参入」という構造

こうした産業政策のもとで、旺盛な企業の参入が実現した。一方、中国では、企業が赤字に陥っても生産停止や市場からの退出が進まないという問題を抱えている。

図1が示すように、たとえば自動車産業で淘汰・制限の対象となった技術のカテゴリー数は、内燃機関関連技術を中心に2011年から2024年までほぼ横ばいで推移した一方、電池や材料など奨励対象となった技術のカテゴリー数は同期間で4から9へと倍増した。問題は、奨励分類となった産業で過剰参入が起きた場合に機動的に淘汰を促すメカニズムが存在しないことである。

実際、2016年にEV用電池産業に参入した57社は、2024年から業界全体が赤字基調に陥ったにもかかわらず、現在も生産を続けている。同様の現象は2010年代の鉄鋼産業でも起きた。2015年には、上場鉄鋼企業のうち1社を除くすべてが赤字に陥ったが、これらの企業に対する補助金による支援は継続し、過剰生産が続いた。とりわけ、こうした市場で国有企業が多く活動している場合、政治的コストの高さゆえに市場からの撤退を促すことが困難となる。その結果、過剰な参入と生産が多くの産業で繰り返されている。

過剰生産の背景にあるのは、個々の企業の経営判断というより、旺盛な参入を後押しする産業政策と、赤字企業の撤退を阻む政治的制約という、2つの構造的な要因である。その結果として、赤字を抱えながらも生産を続ける、いわゆる「ゾンビ企業」が各産業で温存されることになる。

図1 自動車分野における技術分類の推移(産業構造調整指導リスト)

出所:中国発展改革委員会「産業構造調整指導目録」2011、2019年、2024年度版より筆者作成。注:技術は奨励、淘汰、制限に分類されている。

過剰生産がもたらすもの——海外への打撃と、認めない中国

本来であれば国内市場の競争で淘汰されるべき企業が、政府の政策と産業全体の高いコスト競争力に支えられて低価格による輸出攻勢を続ける。これが、中国の産業政策の負の側面ともいえる過剰生産の本質であり、海外の産業基盤を破壊する力を持つ。

新興国が独自の産業政策によって産業構造の転換と経済成長をめざし、産業連関が整ってコスト競争力が高まる結果として輸出先の産業基盤を破壊するリスクが高まり、経済摩擦が生まれる。これは、日米経済摩擦と同じ構図である。また、近年のアメリカにおいてMAGA(Make America Great Again)がひとつの政治勢力として台頭した背景にある経済的要因の一つでもある。ラストベルトを中心に、新興国からの輸入攻勢によって職を失った、あるいはその脅威を感じた労働者層の不満が、保護主義的な政治運動を支える土壌となったのだ。

ところが2024年、習近平国家主席が欧州のフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長に対し、「比較優位の観点からも世界市場の需要の観点からも、いわゆる『中国の過剰生産能力問題はない』」と発言した結果、中国の政策現場では過剰生産そのものが存在していないことになってしまった。この姿勢は外交的な言説としては、2026年7月に中国商務部が提出した文書の中でも変わっていない。

しかし、経済問題としては、この問題が消え去ったわけではない。たとえば、鉄鋼については2024年以降、国内生産が需要をはるかに上回り海外への輸出が急拡大しており、欧州だけでなくベトナム、インド、トルコなどの新興国、さらに日本もWTOへの提訴やアンチダンピング(ダンピング防止税)、補助金相殺関税などの貿易救済措置で対応している。

一方、中国国内でも過当競争は深刻な経済問題と受け止められており、対応を求める声は強い。2025年には中国政府自身も反「内巻」政策を打ち出し、2026年8月においても、 「低価格の内巻競争を是正する」ことを繰り返し強調している。

既存の貿易救済措置はなぜ機能しないのか

過剰生産による輸出が経済摩擦を生む背景には、中国の「社会主義市場経済」と呼ばれる体制が抱える構造的な問題だけでなく、WTOの貿易救済措置そのものの設計上の不備もある。

WTOルールは、輸出国の不当廉売によって輸入国の産業に害が及ぶ場合にはアンチダンピング(ダンピング防止税)で、補助金を受けた輸入によって害が及ぶ場合には補助金相殺関税で、輸入国が対応する権利を認めている。しかしながら、いずれの措置も、赤字を出しながら輸出を続けるという行為や過剰生産そのものを直接規律するものではない。現在の課税率の計算方法にも経済原理的な見落としがあり、過剰生産への対応として国内産業に十分な保護を与えられていないのが実情である。

また、輸出国側に非のない輸入急増に対しては、一定の条件のもと、セーフガード(緊急輸入制限)措置で対応する権利も認められているが、輸出国側の抱える問題の修正を想定していない。

なぜアンチダンピングや相殺関税の税率は、過剰生産を止めるのに十分ではないのか。アンチダンピングは正常な価格と輸出価格との差額(ダンピング・マージン)を、相殺関税は補助金によって特定企業が非合理的に享受している「利益」を、それぞれ特殊関税として追加課税する方法である。いずれも「過剰輸出」を補正しようとする意図はあるが、算定方法には落とし穴がある。

第一に、不当廉売、あるいは補助金による利益により発生した価格低下分は、過剰生産問題の「発火点」に過ぎない。たとえば一時的な救済補助金のよってコストが引き下げられると、その後補助金が停止されたとしても生産・輸出が拡大すると、たとえば生産経験の蓄積による学習効果と呼ばれるタイプの規模の経済を通じてさらにコストが下がり、それがさらなる生産拡大を促すという動学的なメカニズムが働く。現行のアンチダンピングと相殺関税の税率は、このダイナミックな効果を考慮に入れていない。第二に、すでに過剰生産に陥っている市場では、仮に輸出企業が価格を多少引き上げたとしても世界全体の需要と供給はほとんど変化しない。こうした規模の経済効果を織り込んだ思い切った税率を設定しない限り、アンチダンピングも相殺関税も過剰生産対策としては十分に機能しない。

「規模関税」という第4の選択肢

このため、過剰な生産規模そのものを直接抑止する「規模関税」を、第4の貿易救済措置として提案したい。たとえば、国内で赤字を計上している企業からの輸出分を「過剰輸出」とみなし、過剰輸出分を直接相殺することを目指し追加関税率を算定する方法である。Watanabe (2026)では、2010年代後半に起きたゾンビ企業救済による鉄鋼の中国からの輸出に関して、過剰分を推定し、それを補正する効果について、現行のアンチダンピング・相殺関税と仮想的な「規模関税」を発動していた場合について反実仮想シミュレーションをおこなった。図2では、セーフガードを除く2つの現行の貿易救済措置と仮想的に提案する規模関税による輸出削減効果を比較したものである。規模の経済効果を考慮しない現行の税率算定方式では、「過剰生産」に起因する輸出を完全にゼロにすることができていない。

現在の貿易救済措置には、もう一つの問題がある。同じ原因から生じる過剰輸出に対し、各国がバラバラな追加関税率を設定していることである。その結果、関税率の低い国に輸出がなだれ込む動きが続き、赤字輸出国側での生産削減が進まない。これに対応するには、赤字輸出が発生している国からの当該産業の輸出について、輸入国側の課税率を統一することが望ましい。まずはCPTPP加盟国やEUなどで、課税率統一もしくは協調的な動きを進めるのも一案であろう。

中国のEV産業振興策の初年次に、明らかなWTO違反である外国企業差別に対して異議を唱えなかった結果、日本と韓国のEV電池企業は市場を奪われる結果となった。また、現在も過剰生産による低価格が、海外の同業他社の市場を収奪する形になっている。いずれも、本来であればWTOルールによって規律づけるべき問題である。しかし、既存ルールを効果的に運用できなかった、または適切な規律手段を欠いていたため、事態は悪化している。日本政府には、WTOルールを積極的かつ効果的に活用し、日本企業の産業基盤を確保するための対応が求められている。

図2 貿易救済措置でどこまで鉄鋼の過剰輸出を抑止できるか

出所:Watanabe, 2026, “Quantifying the Harm of Subsidies in China’s Steel Industry”unpublished.

(c)Alamy Stock Photo/amanaimages

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