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「シリーズ 投資家目線で問い直す経済安全保障」(3)

対米投資80兆円、返済の原資はOpenAIである── 公表済み1,090億ドルの97.5%が発電に向かう理由と、了解覚書の中身

ポイント

  1. 対米投資5,500億ドルのうち公表済みは約1,090億ドル。その97.5%が発電関連である。
  2. 了解覚書によれば、日本が元本と利子を取り戻すには、事業がその2倍の現金を生む必要がある。覚書自体に法的拘束力はない。
  3. 第1弾で実際に動いたのは約2,500億円にとどまる。その返済は、最終的にオープンAIの支払い能力に依存する構図になっている。

この原稿は、米国西海岸で書いている。カリフォルニア大学サンディエゴ校での仕事のため滞在しており、その前後で、フロンティアAI企業の経営陣や研究者、大規模データセンターを運営する事業者の幹部と会う機会が続いた。

一連の面談で印象に残ったのは、彼らが何を語ったかよりも、何を語らなかったかである。AGI(汎用人工知能、人間並みに幅広い知的作業をこなす機械)という言葉を口にした人物は、一人もいなかった。数年前まで、彼ら自身が好んで使っていた言葉である。

代わりに繰り返し出てきたのは、電力が足りない、半導体が足りない、データセンターが建たない、という三つだった。知能の話ではなく、設備と工期の話である。ある幹部の言葉が、その場の空気をよく表していた。我々が本気で心配しているのは、自律的AGIの誕生などというおとぎ話ではない。それを許さない絶対的な電力不足のほうだ。

滞在中に日本側の発表資料を読み返し、二つの話が同じものを指していることに気づいた。彼らが足りないと言っていたものを、日本の公的資金が建てることになっている。対米投資5,500億ドルである。

公表済みの97.5%は発電だった

2026年2月18日、経済産業省・外務省・財務省は第1弾の3件を発表した。AIデータセンターに電力を供給するガス火力が約333億ドル、米国産原油の輸出インフラが約21億ドル、工業用人工ダイヤの製造が約6億ドル。総額約360億ドルのうち、発電が92.5%を占める。中核となるオハイオ州のガス火力は9.2ギガワットで、米国内で最大規模になる。

第2弾は2026年3月の日米首脳会談で示された。テネシー州とアラバマ州の小型原子炉が最大400億ドル、ペンシルベニア州とテキサス州のガス発電所が最大170億ドルと最大160億ドルである。ただし発表の表現は「更なる作業を行う意図を有する」で、第1弾の「推進することで一致」より弱い。決定ではなく、これからの案件だと読むべきだろう。

それでも方向は読める。第1弾と第2弾を合わせた約1,090億ドルのうち、発電関連は約1,063億ドル、97.5%を占める。第1弾の92.5%は例外ではなく、そのまま傾向になった。

この偏りは、最初から想定されていた。ラトニック商務長官は2025年10月の訪日時に「第1号案件は電力分野」と述べ、日本がガスタービンや冷却システムを供給する構想を示したうえで、「電力とインフラで80兆円の過半」を占めるとの見通しを語っていた。

日本に、ほかの選択肢はあったのか

ここは冷静に見ておきたい。5,500億ドルという金額を受け止められる産業分野は、そもそも限られている。

半導体では、TSMC、サムスン、インテルがすでに米国内で大規模な投資を進めており、日本の資金は国内の先端半導体事業に必要である。医薬品、造船、重要鉱物は、いずれも投資規模が一桁から二桁小さい。80兆円を吸収できる分野は、現実には電力インフラしか残らない。

しかも日本には売るものがある。大型ガスタービンを量産できる企業は世界に数社しかなく、三菱重工はその一角を占める。米国の民間電力設備投資は2026年から2028年の累計で9,400億ドル程度と見込まれており、日米が公表したエネルギー投資の上限額3,870億ドルはその41%に相当する規模である。

日本が一方的に電力を押し付けられたというより、日本が確実に供給できる大型分野が電力しかなかった。そう見るほうが実態に近い。

米国のAIは、電力で詰まっている

冒頭に引いた発言は、公表されている数字とも一致する。

米国では、AI向けの需要に応えるためにガス火力発電所の建設が急増している。データセンター向けのガス発電は2025年末の97GWから半年でほぼ倍増した。開発中の案件は378GWに達し、テキサス州だけで122GWを数える。

ところが、肝心のタービンが手に入らない。GEベルノバの受注残と枠予約は2025年末の83GWから2026年6月末には116GWに膨らみ、いま受け付けている納入年は2031年である。米国では大型機の納入まで5年から7年待ちになっている。シーメンス・エナジーが69GW、三菱重工が35GWの受注残を抱え、業界全体の年産能力60GWから70GWに対し、年間の受注は110GWに上る。待ちきれない開発業者は、効率で劣るエンジン方式に切り替え始めた。

効率が上がれば解決するという見方もあるが、実際には逆に働いている。AIの利用単価はこの3年で99.7%下がったが、電力需要は増え続けた。安くなった分だけ使う量が増えるためである。効率の向上がかえって総消費を押し上げるこの現象を、ジェボンズのパラドックスと呼ぶ。

中国との差も大きい。2025年の年間発電量は中国が10,583TWh、米国が4,520TWhだった。中国は2024年の1年だけで543GWの発電容量を積み増している。米国が建国以来積み上げてきた総容量に匹敵する規模である。結果として中国のAIデータセンターの電気料金は米国の半分以下にとどまり、送電網への接続待ちも発生していない。

最良の半導体を持つ米国が電力で詰まり、電力に余裕のある中国が半導体を欠く。これがAI競争の現在地である。日本が引き受けたのは、この米国側の詰まりを解消する役割である。

利益配分は1対9か

対米投資については、利益配分が日米で1対9であり不平等だという批判が流通している。だが枠組みの根拠である戦略的投資に関する了解覚書(2025年9月4日署名)を読むと、実際はもう少し込み入っている。

覚書によれば、案件から生まれた現金は、まず米国と日本に半分ずつ配られる。1対9になるのはそのあとである。比率だけを取り出して不平等と呼ぶのは正確ではない。

ただし、半分ずつの局面がいつ終わるのかが重要である。覚書は、元本と利子に相当する額が「それぞれに」配られるまでと定めている。日本が元本と利子を受け取り終えるまでではない。米国側にも同額が渡るまで続く。

具体的に考えるとわかりやすい。日本が100億ドルを出した案件があるとする。事業が生んだ現金は、日米に50億ドルずつ配られていく。日本が100億ドルと利子を受け取り終えるころには、米国にも同じだけ渡っている。つまり日本が元本を取り戻すには、事業が200億ドル超の現金を生まなければならない。日本側が受け取る50%は、米国で課税されたあとの金額でもある。

覚書には、ほかにも押さえておくべき定めがある。日本は自らの判断で資金を出さないことを選べるが、その場合は利子にあたる部分を受け取る権利を失い、米国は日本からの輸入品に関税を課すことができる。案件を選ぶのは米商務長官が議長を務める投資委員会と米大統領であり、日米で構成する協議委員会は意見を述べる機関と位置づけられている。そして覚書自体が、行政上の了解であって法的拘束力のある権利義務を生じさせないと明記している。

実際に動いた金は、約2,500億円である

では、80兆円はもう動き出したのか。ここは数字を正確に見る必要がある。

日本経済新聞によれば、第1弾の3案件に国際協力銀行(JBIC)と3メガバンクが融資する方針を固め、まず計約2,500億円を融資して段階的に積み増す。案件ごとに特別目的会社を設け、JBICと三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行が協調融資する。JBICと3メガ銀の比率は1対2で、民間3行の拠出分には日本貿易保険(NEXI)が保証を付ける。

第1弾の事業総額は5兆円を超える。うち初回に動くのは2,500億円である。最大のガス火力は事業総額333億ドル、約5.3兆円で、初回の融資額は2,200億円程度にとどまる。工事の進捗に応じて段階的に貸し増す方式であり、資金が必要になるたびに各行と事業会社が契約を結ぶ。

この構造には二つの含意がある。第一に、80兆円が一括で米国に流れるわけではない。進捗に連動するため、事業が止まれば資金も止まる。第二に、民間3行の融資にNEXIの保証が付く以上、損失が出た場合に最後に負担するのは日本の公的部門である。民間が2で公的が1という比率は、リスクの配分を表していない。

なお、5,500億ドルとして数えられるのは日本側が供給する資金であり、事業会社が独自に調達する分は含まれないとみられる。覚書が「投資額」を「日本から提供される金額」と定義しているためである。事業の総額と日本の負担額を混同しないほうがよい。

日本企業の参加も進んでいる。ガス火力にはソフトバンクグループが主導する形で東芝、日立製作所、三菱電機などが加わる計画である。もっとも覚書の日本企業優先条項は、英語の原文で義務を表すshallではなくshouldが使われ、「可能かつ利用できる場合には」という条件も付いている。選定するのは米側が議長を務める投資委員会である。日本側の資金の手当てとしては、JBICが2025年10月に「日本戦略投資ファシリティ」を創設し、令和7年度補正で7.15兆円、令和8年度概算要求で14.35兆円の事業規模を追加計上した

返済の原資は、オープンAIである

最も確認すべきなのは、貸した金が何によって返ってくるのかである。ここで話が一気に具体的になる。

第1弾で最大のオハイオ州ガス火力は、ソフトバンクグループが主導するデータセンター向けの電力供給施設である。同グループ傘下で米国のデータセンター開発を担うSBエナジーは、2026年8月末に米国での上場に向けた目論見書を提出した。そこにオハイオ州南部の計画が記されている。計画容量8ギガワット、世界最大級、主としてオープンAIのインフラとして機能する予定だという。

同じ目論見書で、SBエナジーは投資家に対し、自社がオープンAIに実質的に依存しており、同社の財務状況が悪化すれば重大な損害を被りうると警告している。オープンAIはデータセンター容量を大量にリース予約し、数十億ドル規模の新株予約権を保有し、2028年までの同社製ソフトウェアの利用契約も結んでいる。オハイオの開発の資金調達はエヌビディアの残存価値保証にも支えられている。

SBエナジーの足元の数字も見ておきたい。2026年1〜6月期は売上高1億3,870万ドルに対し、純損失は32億1,000万ドルだった。売上は太陽光と蓄電池の祖業から生まれており、データセンター部門の収益はまだ立っていない。日本経済新聞が目論見書を解析したところでは、受注残8.8ギガワットのうち着工済みは0.8ギガワットにとどまり、9割が未着工である。受注残を収益化するには約1,780億ドル、日本円で約28兆円の投資が必要で、設立以来の調達額は累計約190億ドルにすぎない。

つまり、こういう構図になっている。日本の政府系金融と3メガバンクが、NEXIの保証を付けて融資する。その資金は米国のガス火力発電所に入る。発電所の収入は、隣接するデータセンターとの長期契約から生まれる。そのデータセンターの主たる借り手はオープンAIであり、開発主体は自らオープンAIへの依存をリスクとして開示している。日本の納税者が支える信用は、最終的にオープンAIの支払い能力につながっている。

加えて、日本国内のデータセンターもまた送電網の制約に直面している。にもかかわらず、この枠組みの資金はすべて米国内に投じられる。電力を大量に使う産業がどちらの国に立地するか。その競争条件を、日本は自らの資金で自国に不利な方向へ動かすことになる。

何を確認すべきか

この枠組みが日本の国益に資するかどうかは、まだ判断できない。確認すべき点を三つ挙げておきたい。

第一に、覚書の分配規定と、実際の融資契約がどう接続するのかである。覚書は日米で現金を半分ずつ配ると定める一方、国内での資金供給は事業会社への融資として組まれている。融資の返済が先か、覚書の分配が先か。両者の関係は公表されていない。日本の回収経路が二通り書かれていて、その優劣がわからない状態である。

第二に、電力の買い手の信用力である。発電所の収入を支える長期契約の相手は誰で、契約期間は何年か。オープンAIのように自らの財務がまだ固まっていない企業が相手なら、その事実ごと開示されるべきだろう。買い手が公表されないまま融資だけが積み上がるのであれば、国会や報道が問うべき対象になる。

第三に、日本企業を優先するという努力義務が実際に機能したかどうかである。オハイオ州9.2ギガワット案件で、日本企業がいくら受注したのか。とりわけガスタービン本体を三菱重工が納めるのか、GEベルノバやシーメンス・エナジーになるのか。主要3社の受注残が2031年まで埋まっている状況を踏まえれば、ここで日本製が入るかどうかは小さな問題ではない。第3弾は半導体工場に向かう見通しで、事業規模は2兆円から3兆円になる可能性がある。そちらでも、日本製の製造装置と素材がどれだけ採用されるかが、日本に残る取り分を決める。

米国のAIを止めているのは、研究の停滞ではなく発電設備の供給制約である。その制約を緩める役割を日本が担うこと自体は、合理的な選択でありうる。ただし担う以上、何を得て何を負うのかを、覚書の条文と融資契約の両方まで降りて確認しておく必要がある。ここで問われるのは、交渉の巧拙そのものではなく、案件の中身を開示し、継続的に検証できる仕組みを整えられるかである。個別案件が具体化していく今後、まさに国会がその役割を果たすべき局面となる。

*本稿の内容は筆者の個人的見解であり、所属組織を含め、いかなる組織の見解を表すものではありません。

出典:「日米首脳会談」(首相官邸ホームページ―総理の一日)を加工して作成

 

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